小動物獣医師になって先輩獣医から初めて教えられた事
「動物に咬まれても手を引いてはいけない」
これが小動物の診察を始めて最初に教えてもらった事というか注意された事でした。
無暗に手を引けば皮膚や肉が避けて傷口の損傷を大きくしてしまう。咬まれたら動かさず、そのまま放してくれるまでジッと我慢していれば傷は牙が刺さった所だけ点状の形態のままに留めておくことができる。という意味だったが初めて聞いた時は眼が点になった。
咬まれたら手を引くのは反射的な行動。それをしてはいけないと言うのです。
「私には無理かもしれない」
これがその言葉を聞いた率直な感想でした。
それからしばらくして自分の取扱の未熟さから猫に咬まれるという失態を犯してしまったのです。
「やばい」
そう思った時には既に遅く牙が皮膚に食い込んでいた。
しかしそこにはその様子を冷静に観察する自分がいました。以前なら当然パニックになり大騒ぎしていたが、「手を引いてはいけない」という言葉が大きなインパクトになり頭の片隅に残っていたのだろう。「早く放してくれ!」そう心に念じながら咬みついた手を放してくれるまでジッと待っていた。時間にして1、2秒だったのかもしれないが咬まれている方は結構長く感じた。
そのおかげか傷口は牙が刺さったところだけで済んだのです。
私にとって猫に咬まれる事が初体験だったので傷口は大したことはなかったが手はグローブのようにパンパンに腫れ指を曲げることすら困難な状態に。まだ猫の咬傷の免疫を持っていなかったからです。
咬まれたら手を引いてはいけない
そんな記述や学術書やセミナー講師には出会った事はありませんでした。(当院の動物看護士は学校で習ったらしいが)これは「獣医師、動物看護士、トリマー、犬の訓練士等、咬傷の危険と隣り合わせの業種で昔から言い伝えられてきた知恵のようなもの」なのかも知れないが、そのお陰か今のところ咬まれても重傷を負うことなく現在に至っています。
私的な見解としては確かに咬まれたら手を引かずにいる方が損傷が少ない分、傷の治りもいいような気がします。こういう対処法もあるのかと、知識として覚えていることは悪い事ではないと思います。しかし犬猫の口腔内には有害な菌も全く存在しないわけではないので、傷の大きさイコール重症度とは限りません。やはり咬まれたら早めに病院で診てもらう事をおすすめします。
院長